医王山のこと

 医王山は薬用植物をはじめ多様な植物の宝庫として知られている。明治の文豪、泉鏡花著の「薬草取」の舞台ともなった山でもある。冬季は厳しい降雪に見回れ、残雪は5月の下旬頃まで止まることもある。そして、こうした降雪による多量の水分は岩肌に深く浸透し、植物の生育にこの上ない好条件を与えているものと思われる。

 医王山は平成8年に県立自然公園に指定され、二俣町からの登山口として「原石山」に医王山ビジターセンターがオープンした。ビジターセンターから大沼(おおいけ)に至る林道は豊吉川の険しい渓谷を切り開いたものであり、いたるところに岩肌が露出している。これらの岩体は約1800から2000万年ほど前の、活発な火山の噴火によってもたらされたものといわれており、「凝灰岩」や「流紋岩」といった比較的硬い岩盤が見られる。こうした硬い岩盤ほど渓谷はより深く削られる傾向があり、豊吉川もこうした作用により深い渓谷を作っている。

 医王山ビジターセンターから少し歩き右側の比較的湿り気のある岩肌を注意深く見ると、モウセンゴケを見る事がある。コケとは言いながら、立派な顕花植物である。6月ごろには小さな5枚の花びらが見られる。食虫植物といわれ、付着する虫などをひたすら待ち、虫がとまると葉が湾曲して包み込む。粘液で動物性たんぱく質を吸収し栄養を補給する。従って人間の髪の毛には反応するが、木片には反応しないとのことであるが、試してみてはいかがだろうか。この付近の岩肌には、ショウジョウバカマ、キンコウカ・イワカガミ・ノギラン・ヒメシャガ・オサシダ・オオバギボウシなどが見られる。林道はやがて大きく右に曲がるが、ここではピンクや白っぽい色が重なり流れ模様をした岩盤が現れる。この岩盤は「流紋岩」といわれるもので、二酸化ケイ素を多く含むため火山の噴出時は比較的粘り気のある溶岩として流出し、このような流れ模様が見られる。この付近の岩石は崩壊が激しいので、離れて眺めるだけにしよう。さらに進めば、今度は流れ模様ではないが、黒っぽい岩肌をしたものや、その左側には黄緑色の岩盤も見られる。黒っぽいものを良く見ると角張った結晶をした鉱物が固まっているように見える。これは「真珠岩(パーライト)」といわれるもので、見た目は真珠とは思われないが、その結晶がぽろぽろとはがれ見た目は真珠のようだとのことでその名がつけられたようだ。この真珠岩は噴出環境においては石器時代にヤジリなどで使われた「黒曜石」となるものもある。また、この真珠岩や流紋岩には白い乳白色の玉髄といわれる鉱物や水晶も含まれていることもある。その左の黄緑色の岩は「緑色凝灰岩(グリーンタフ)」といわれるもので、漢字で示す通り火山灰が凝縮してできたものである。ここでは噴出時のレキ岩が含まれるので「凝灰角レキ岩」という。なぜ緑なのか不思議だが、海底火山により噴出した火山灰が堆積した、当時の海水の成分によるものといわれている。

 この医王山の近くでは噴火と同時代頃の約1700万年前に堆積した地層からは、熱帯から亜熱帯地方の海に生息するザンゴの化石が見つかったり、また医王山系の凝灰岩からヤシの木の一種と見られる化石も見つかっている。これらは火山活動の間隙をぬって繁殖したものと言われている。医王山で見られる流紋岩と類似したものは加賀では鞍掛山などや、能登では岩倉山などでも見られ、その昔は石川県のみならず広く火山活動が活発に繰り広げられたといわれている。

 さて、目を少し谷側に向けると、斜面からはマルバアオダモ、アオハダ、タンナサワフタギ、ミズメ、ヤマボウシ、カラスザンショウ、アカメガシワなどが、背丈を競っている。早春にはコナラの若葉が銀色に輝き、やがてタニウツギの花が赤く萌え始める。このタニウツギは日本海側の特産種で太平洋側では見られないとのことである。この花が咲くころは田植えや竹の子狩りが始まり、海ではフグの毒性が弱まり食べごろとか、旬を感じさせる花なのである。この豊吉川渓谷は秋にはヤマザクラやヤマモミジ・ハウチハカエデ・ヌルデ・ヤマブドウなどが赤く紅葉し、タカノツメやコシアブラ、ダンコウバイ等は白黄色に紅葉しコントラストがきれいである。

 やがて林道はイタヤカエデやホオノキなどの高木をくぐり抜け、前方が突然開けてくる。池の向こうに奇岩がそそり立つ。医王山の特徴ある景観の一つ「トンビ岩」である。このトンビ岩はトンビのクチバシのように尖っていることから名づけられたもので、これもまた流紋岩がもたらした姿である。

 かつてはこの付近に大崩落があったといわれ、崩落によると思われる岩石が豊吉川を広く埋め尽くし、比較的平坦な地形となっている。この付近を大沼平といい、周辺には遊歩道もできた。雪解けとともにイチリンソウ、キクザキイチゲ(キクザキイチリンソウ)、スミレサイシンなどの早春の花が咲き、目を楽しませる。早春の植物は北方系が多く、木本が茂る前の早々に花を咲かせ夏には眠りに入る。イチリンソウ・ニリンソウ・サンリンソウはもともと兄弟であり、北から南下したといわれている。イチリンソウは林床の周辺の日当たりのよいところ、ニリンソウは林床でも比較的湿り気のあるところを好み、サンリンソウは高地を好むのだそうだ。以前当会で日光の白根山へ登ったが、てっきりニリンソウと思っていたのがサンリンソウだということがわかった。

大沼には浮き草(ムジナスゲ)や生きた化石と言われるミツガシワも見られる。池には時々アオサギなども訪れている。また対岸には、目的は定かでないが採掘洞窟(奥行き不明)もある。大沼平ではホオノキ、イタヤカエデ、キハダ、ミズナラ、ヤマナラシ、ウワミズザクラなどの高木が生い茂り、かつては薮こぎでしか到達できなかった湧水(三色泉)にも道がついた。ここでは副流水が突如として湧き出ており、イワナも生息しているようで、夏でも涼しげなところである。

 今年から、地蔵峠・箱屋谷山の横を経て尾根つたいにビジターセンターへの往復道が出来た。目新しい植物は見られないが、眺望もよく、帰りのコースとしてお勧めしたい。

 医王山はかつては信仰の山として修験者の修練の場であったといわれるが、今では一般登山者に大いに親しみを持てる山となった。健脚者はナカオ新道まで足を伸ばせば違った世界が開ける。尾根にはオオコメツツジやカライトソウ、斜面にはミズバショウも見られ、魅力が尽きない山である。

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